青木理のカウンター・ジャーナリズム
「抵抗の拠点から」第332回「風評加害」
今日配達のサンデー毎日(6月30日号)の青木理コラム「抵抗の拠点から」はいつもにもまして興味深かった。タイトルは<風評加害>被害じゃなくて加害ですって!(全文書き写しますが、できればサン毎6月20日号(430円)をお買い求めになることをお勧めします。
もちろん文字色、文字の大小はブログ筆者によります。)
* 風評加害という造語があることを最近、知人の新聞記者に教えられた。どうやら「風評被害の原因となる理屈や言葉」を指すらしく、福島の原発事故をめぐって環境省がこの5月23日に東京・六本木で開いたシンポジウムでは、パネリストの社会学者が「風評加害の問題」に触れ、有力世襲議員として知られる環境相が「風評加害者にならないこと」の重要性を訴えたという。直後の5月28日には、衆院の環境委員会でも「風評加害」なる造語が登場している。質問でそれを発したのは、かつての民主党政権で原発事故収束担当相や環境相などを務め現在は自民党入りを目指しているという節操無き無所属議員。"先輩環境相"としてのアドバイスのつもりか、現環境相に向けて彼はこう訴えた。
*「後悔していることがある。それは風評加害(への対応)だ」「非科学的な情報や報道には
、丁寧に説明するだけではダメ。きちっと反論することが求められている」そしてこの無所属議員に言わせれば、私も「風評加害者」の1人らしい。政治家としての彼には一片の関心もないし、SNSの類いもやらないから知らなかったのだが、少し前に彼は自身のSNS上で私を名指し批判し、「風評加害」だと指弾していたらしい。原因は私がテレビ番組で発した「汚染水」という言葉だったという。
* ご存知のとおり、
事故から10年を経ても福島第一原発の廃炉作業は先がまったく見えないが、敷地内に林立するタンクに貯まった膨大な「汚染水」を放射性物質除去装置で「処理」し、海洋放出する方針を政府は先に正式決定した。地元漁協などが猛反対する一方、政府の意向に沿って主要メディアは「処理水」と書くことが多い。
* だが、果たしてこれは適切な表現か。
人類史でも未曾有の大事故を起こした原発は現在も日々大量の「高濃度汚染水」を生み出し、いくら除去装置で「処理」を施したといっても、少なくとも現在保管されているのは「汚染水」。除去装置では取り除けないトリチウムが含まれるほか、除去しきれなかった他の放射性物質も残留しており、あらためて「再処理」が必要なことは政府も東電も認めている。
* しかも政府や東電の従前の隠蔽体質を考えれば、
現時点でこれを「処理水」と表現する方が物事の本質を見誤らせ、
同時に「海洋放出」という政府や東電の決定を追認する効果をもたらす。
* 思い出すのは武器輸出を「防衛装備移転」、共謀罪を「テロ等準備罪」、
そして安保関連法を「平和安全法制」などと言い換え、
物事の本質をそらすのに躍起となった昨今の政治の狡猾であり、
「風評加害」という言葉がさらに悪質なのは、
物事の本質を考察しようとする者を排撃する犬笛の効果を誘発しかねない点であろう。
* 結果として政治は本質の説明からも逃れかねない。
一見して福島に寄り添うふりを醸しつつそれを可能にするのだから、
これほど邪悪な政治的造語はない。