2021年6月18日金曜日

150.東京新聞6月18日朝刊6面<視点>

 今日の視点は尊敬する記者の奥野斐さん(社会部)

LGBT法案提出できず                 

困難に寄り添い法整備急げ    

 LGBTなどの性的少数者への理解増進を図る法案が、またも自民党の一部議員の反対で国会に提出されなかった。法案をめぐり「(LGBTは)種の保存に背く」などの問題発言も出た。議員の差別意識や無理解が目立ち、当事者不在の議論に見えた。LGBTはいじめや差別に遭いやすく、自未遂リスクも高い。命に直結する問題との認識を深め、法整備を急ぐべきだ。

「職場に打ち明けたら、不当に解雇された」「家族に話すと家から追い出され、ホームレスに」「死ぬしかない、と絶望して命を絶った友人がいる」5月30日夜、東京・永田町の自民党本部前でLGBT当事者らが口々に訴えた。自分の性に違和感なく育ち、異性を好きになれば、感じなかっただろう苦しみや痛み...。今は同性愛者と表明している松岡宗嗣さん(26)「ずっと自分はおかしい存在なんじゃないか、言ってはいけないと思って生きてきた」と振り返る。偏見や差別は身近だ。研修などに携わる藤井ひろみさん(53)は「私が当事者だというと、皆がさーっと引いていく感じが分かる」と話す。

 宝塚大の日高康晴教授の調査によると、同性愛、両性愛男性の自殺未遂リスクは異性を愛する男性の約6倍と高い。日高教授の別の1万人規模の調査では、同性愛女性の約半数、同性愛男性やトランスジェンダーの半数以上にいじめ被害の経験があった。約7割の当事者が職場や学校で差別的な発言を聞いていた

 世界では、80以上の国・地域で性的指向による雇用差別を禁じており、先進7カ国(G7)で法的にLGBT への差別を禁止していないのは日本だけ。先日のG7サミット首脳宣言にもLGBTへの差別に対処する必然性が明記された。「差別やハラスメントが法律で明確に禁止されていないこと自体、日本は国際的に見てガラパゴス状態」と、独立行政法人労働政策研究・研修機構の副主任研究員、内藤忍さんは指摘する

 法案の反対意見は、目的と基本理念の「差別は許されない」という文言や、性同一性から「性自認」への言葉の変更に集中した。「差別と訴える訴訟が増える」「体は男だけど女だから女子トイレに入れろとか、ばかげたことがいろいろ起きている」という主張で不安をあおり当事者の困難に寄り添う姿勢がない。

 五年前も、自民党の保守派の反発で法案は党の了承をえられなかった。今回「これでも党内の理解は進んだ」という声も聞いた。しかし、全国の百以上の自治体で同性カップルを認めるパートナーシップ制度が導入され、企業のLGBT施策も進む中で、自民党の周回遅れの議論と現実との差はむしろ広がっている。

 法整備が進まない日本の現状。ある支援者の言葉が耳に残る。「若い子たちが心配。日本に生まれなきゃよかったと、思わないといいけど」