2022年4月9日土曜日

NO.491 2022年4月9日(土)東京新聞今日の書評欄より

検証 政治改革 なぜ劣化を招いたのか 岩波新書990円

 川上高志著 

   1959年生まれ。共同通信特別編集委員兼論説委員。白鵬大学客員教授

    強すぎる「官邸主導」生む

 「プーチンンを諌める側近はいないのか?」ウクライナ侵略開始直後に上がった疑問だ。その後、側近が更迭されたこと、ロシアメディアでは真実が伝えられていないことが報道された。とんでもない独裁体制だと思いつつ本書を読んだら、そこまでひどくはない(と願う)が、日本も同様の状況だと思いはじめた。著者のいう「強すぎる官邸主導」が今のプーチンに重なる。

 副題の「劣化」は政治改革に伴うものだ。約30年前に発覚したリクルート事件をきっかけとし、強力な首相、政権交代可能な選挙制度をめざした改革だった。以降、小選挙区比例代表並立制、政党助成金、経済財政諮問会議、チルドレン、政治主導、モリ・カケ・サクラに文書改ざん等の多様なキーワードで表される国内政治が展開されてきた。

 当初のねらいを超えて首相とその側近たち(官邸)が力を持ちはじめ、さまざまな政策や手法で官邸主導が強化された。第二次安倍内閣の「小刻み解散」を例にすると、それは選挙機能の一つである「業績評価」を国民にさせず、野党に対して共闘などの選挙対策を封じるものとなった。

 こうした実際に導入された改革を自民党派閥、野党、国会、官僚、メディア、政治と国民の項目別に分析し、それらの改革が進むに従って各アクターが政府・自民に対するけん制力を失ったため強すぎる官邸指導=劣化に至ったと指摘する。各項目を一貫した視点で論じており日本政治の実情が浮かびあがる。記者としての取材に加えて、学術研究や調査、政治家や官僚らの多数の文献で論を裏づけている点も説得力を高めている。

 提唱される新・政治改革にも賛同できる(選挙制度の説明には工夫が欲しい)。ただ、実現すべき第一目的を明確に定めないと前回改革の二の舞になる恐れがある。当時の一番の眼目は政治腐敗に対する国民の怒りの鎮静化だった。だが政治主導や選挙制度改革等が謳われ始め、優先目的とされた。目くらまし改革が問題の所在を不明確にし、そのことが「劣化」をもたらしたのだ。

                 評 小西 徳應 (明治大学教授)

🌻 本当はここに本の写真を載せたいのだけれど、もっか写真を載せるパソコン機能がお休み中なので残念です。よくよく気をつけて、新聞記事を書き写したのですが、もし写し間違いがあったらごめんなさい。🌻