2021年5月21日金曜日

114.  5月21日毎日新聞朝刊記事4面(総合)斎藤幸平さんへのインタビュー

 <「人新生の『資本論』」斎藤幸平さんに聞くー前編ー>

見出しは、巨大ITに富集中 

「データ主権」取り戻せ 

 コロナで広がる格差

新聞から書写す <「新型コロナウイルス禍の中で、インターネトを使ったサービスへの依存がますます強まり、巨大IT企業への富の集中が加速しているように見える。私たちは格差の広がりにどう対処していくべきなのか。際限ない成長追求の弊害を説いた著書「人新生の『資本論』」(集英社)がベストセラーとなっている大阪市立大准教授、斎藤幸平さん(34)に話を聞いた。[聞き手・村尾哲]>

 私が深く頷いたのは、コロナで広がる格差について。(記者は◆斎藤さんは⚪️)

◆<コロナ禍では経済全体が大きく沈む一方で、ウーバーの他にも、グーグル、アマゾンといったGAFA(ガーファ)と呼ばれるPFが軒並み高収益を叩き出しています。>

⚪️<家にいる時間が長くなればなるほど、出前を注文したり、ネットショッピングをしたり、動画を見たりといった時間が増えるわけです。そうした中で米国では、IT企業の経営者のようなビリオネアと呼ばれる富裕層が資産を50%程度増やしている。日本でも同様で、富裕層は儲けたお金を株式などに投資して、マネーゲームで資産がどんどん増えて行く。「規模の経済」が働いていって、PFの大きなところはどんどん便利になって富を吸い上げていくわけです。他方でこつこつ働いている普通の人たちは、コロナ禍で苦しんでいます。店をたたんだり、失業したりして、劣悪な労働環境に流されていかざるを得ない人が増えている。そしてPFのもと、労働者はますますコストカットのための道具として使われる。例えばアマゾンは巣ごもり需要で大もうけしているけど、実際に倉庫で働く人たちは過酷な環境で働いている。ごく一部の人たちだけがもうかっている下で、多くの人たちが犠牲になっている。

◆<ただ、多くの人がPFのサービスによって利便性を享受しています。その点で私たちの生活は豊かになったと言えませんか?

⚪️<もちろん便利になりました。私自身も、グーグルやスマートフォンを使っているし、インターネットがない時代に戻れと言うつもりはさらさらない。でも、便利なサービスが、何の見返りもなく無料で提供される、そんな甘い話があるわけがない。当然彼らはそれでビジネスをしているわけです。それは、サービス利用者が何を検索したとか、何を「いいね」したとか、どういう写真をアップしたとか、そういうデータをどんどん吸い上げていくというものです。

 個人データは「21世紀の石油」と言われますが、まさにPFは利用者のデータを吸い上げて、私たちにわからない仕方でさまざまに分析したり加工したりして商品にしている。そういう意味で私たちは、いわばフェイスブックで遊んでいる間にフェイスブックのための「労働者」になっているわけです。

◆<サービスを利用しているつもりが、PFのためにデータ収集という「労働」をしていると。

⚪️<そうです。この働きに歯止めをかけずに「便利だね」と素朴に受け止めていると、私たちの24時間の生活のあらゆる行動を追跡され、データが分析されることになる。やがては、そのデータに基づいて私たちの感情とか欲望までがコントロールされ、行動を変容させられていく。そうなったらもう、ニセモノの欲望なのか本当の欲望なのか、自分でもわからなくなる。

 そんな世界になるのを防ぐには、自分のデータを渡す・渡さないを自分自身で決める「データ主権」を取り戻していく必要があると思います。公共的な目的に資するようなデータの使い方は許容する。一方で、何かの宣伝や、健康データを保険会社に売るような使い方に対しては拒否する。民主主義の鍵は、主権という概念にあるわけですから、時代に合わせアップデートしていく必要があります。=後編へ続く(写し間違いがあるかもしれませんがご容赦下さい)